その日も私は昼過ぎに目を覚ました。家の中には、もう誰の気配もしない。

 今日は、私の誕生日だった。

 リビングのホワイトボードにはいつもと変わらない言葉が記されていて、いっそ油性ペンで書いてしまえばいいのにと思う。
 そして、私の書き込む欄を消せばいい。

 ホワイトボードを睨んでいたが、ふと思い立ってペンを手に取った。
 キャップを抜いて、真っ白な欄にペン先を走らせる。
 私のところに『誕生日』と。

 夜になって帰ってきたあの人たちは、これを見てどう思うだろう。
 娘の誕生日を忘れていたことに慌てふためくだろうか。
 私に悪かったって、詫びるだろうか。

 その姿が目に浮かぶようで、、私は満足してペンを置く。

 もうお昼ごはんの時間も過ぎていて、お腹が空いている。
 食事にしようと思いその場を離れると、冷蔵庫を開けた。

 白い箱が入っていた。

 その箱を見た瞬間、全身の血液が頭に向かって駆け上がった気がした。

 取っ手のついたその白い箱は、ケーキ屋の箱だった。
 大きさからして、ショートケーキが一つ入ってるんだと思う。

 呼吸が荒くなり、私は怒りに任せてその箱を引っつかむ。
 中のケーキがどうなろうが、知ったことじゃない。
 生ゴミの入ったダストボックスに、箱を投げ捨てた。

 こんなことをするぐらいなら、私の誕生日なんて完全に忘れ去っていた方が何十倍も何百倍もマシだった。

 どうでもいいんだ。
 私のことなんて。

 昼食を食べるつもりだったのを部屋に引き返し、私は黒のパーカーと財布の入った鞄を引っつかんだ。
 この家にいたくない。

 家を飛び出し、肺いっぱいに冷たい空気を吸い込む。

 一週間ぶりの外だった。

 真っ昼間に中学生が歩いていても補導されない時期になっていたのは幸いだ。

 学校へ行かなくなってから半年間、外出すると言えば本やCDを買いに行くぐらいで、足は自然とその方向に行く。

 街に出て、新しいCDを試聴してみたりするが、気分は一向に晴れなかった。

 本屋で立ち読みをしようと場所を移して、ファッション雑誌を手に取ってみても、外出しない私が服装なんかを気にしてどうするんだって気持ちになってしまう。

 結局マンガ雑誌に落ち着き、ページをめくる。

 そしたら、店の中に中学生ぐらいの女の子たちが騒がしく入ってきた。

 背中を冷たいものが撫でたような感覚に、私は体を強張らせる。

 知らない子ばかりだ。
 同じ中学校の生徒だとしても、クラスか学年が違うのだろう。
 だったら気にすることなんてない。
 そう思うのに、私は雑誌コーナーに近づいてくる女の子たちから逃げた。

 パーカーのフードを被り、人気のない参考書コーナーに移動する。

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