帰宅した私は久しぶりに学校の鞄を開けた。

 浩平は何も分かってないし、お母さんもお父さんも何も知らない。
 だって、私は誰にも言わなかった。イジメられていたことを。

 机の上で開けた鞄は鮮やかだった。
 鞄の中にぶちまけられたポスターカラーが混ざり合い、固まって、教科書もノートも筆記用具も何もかもがぐちゃぐちゃになっていた。

 これが、学校へ行かなくなった決定的な出来事だった。

 犯人は知らない。
 なぜ自分がイジメの標的になったのかも知らない。
 ただ、ノートや教科書に落書きされ、やたらと筆記用具や細かな物がなくなるようになり、知らないメールアドレスから死ねと届くようになっただけ。

 誰にも相談なんて出来ない。
 誰かも分からない人から嫌われイジメられているんだなんて、言えなかった。
 私はそんなかわいそうな子です、だなんて。

 イジメになんか立ち向かえない。
 でも、助けてくださいだなんてもっと言えない。
 怖い。
 イジメられっ子な私なんて、嫌われてしまいそうで怖かった。

 だから逃げたのに。
 それなのにその学校へ行かなくなったことで嫌われるとか、無意味だ。

 緑と青のマーブル模様に染められた筆箱を開けると、固まったポスターカラーの破片で手が汚れた。

 筆箱の中のシャーペンもカラーペンも折られて、消しゴムまで切り刻まれている。

 イジメが始まってからしばらくすると、人の笑い声に耐えられなくなった。

 教室のどこかで笑い声がするたびに私が笑われているような気がして、全員が犯人のような気がして、いつも手を握り締めて緊張していた。
 自分の一挙一動が見張られ笑い者にされているんじゃないかって、怯えていた。

 誰もこんな気持ちを知らないだろう。誰もこんな気持ちを理解しないだろう。

 自分でも分かっている。
 そんなことないって、そんなの自意識過剰の被害妄想だって分かっている。
 でも、その思いを振りきれない。

 筆箱の中からカッターナイフを見つけ出す。
 これも刃が全て折られていて、ずいぶんと短くなってしまっている。

 私が死んだら、みんな泣いてくれるだろうか。

 私をイジメていた犯人は自責の念に駆られて、お母さんとお父さんは私を一人にしなければと後悔して、浩平もあんなことを言わなければと私にわびてくれるだろうか。

 それは素敵で、ひどく魅力的だった。

 みんな、死んだ私に泣いて許しをこえばいい。

 自分が醜い笑みを浮かべていることに薄々感づいていたけれど、気づかないふりをした。

 もう全てを終わらせてしまいたかった。

 そのために、わざと自分の思考を歪ませる。

 私はカッターナイフを手首に当てた。
 差し出した左手は震えている。

 死ねばいいのに。
 こんな自分、死んでしまえばいいのに。

 殺してしまえ。

 殺してしまえ。

 殺してしまえ!

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