「清沢さん、着きましたよ」





車が停まり、古手刑事に声を掛けられて、




清沢康成はハッと我に返った。





「ジャスト、11時!


俺の読みもなかなかなもんですね~」





得意げにエンジンを切る古手刑事に苦笑しながら、




清沢康成も助手席から降りた。






あれほどの山道だったが、



今日の車酔いは、前回程酷くはなかった。






やっぱり薬は、



用法、容量を守って飲むものだな、と、実感した。






降り立って、山のひんやりした空気を、存分に吸い込んだ。






鳥の鳴く声、そして羽音。



時折吹く風に樹の葉が揺れる音。







清沢康成は、目を閉じて、



思わず両手を広げて、



全身で『山』の空気を感じる。






なるほど、と思った。






彗はこうして、物を感じていた。






そこが山だと教えられれば、



この空気をもう一度感じた時に、



そこが山の中、だと認識出来た。






…五感…。






今までどれだけ、自分が視覚に頼っていたかを感じた。





見えなくても、音が教えてくれる。




頬に感じる風が教えてくれる。







何より、全身の神経が、





自分の感覚に集中する…。



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双子  記憶喪失  幼なじみ  火事  切ない