名前を呼ばれて、長椅子から立ち上がる。






いつもの診察室のドアをノックすると、



中から、どうぞ、って、



修吾先生の声が聞こえる。






私がドアを開けて中に入ると、



修吾先生は椅子を正面に向けて私を見上げた。





そんな視線を感じながら、


私も丸椅子に腰を掛ける。






「…調子はどう?」




いつもと変わらない言葉で始まるカウンセリング。



別に、どうも、と、私は呟いて、



窓の外に見える空を見上げた。






「…風が冷たくなって来たね。


…朝晩冷えるから、腹出して寝るなよ」




「もう、先生。子供じゃないんだから」





私は少し拗ねたように文句を言うと、




修吾先生は笑いながら、



カルテに何か書きこんだ。





「…先生?


先生は幸せ?」





私がいきなり放った言葉に、



修吾先生はえ?と聞き返した。






「…幸せ?


…う~ん。まあ、一般的には幸せだろうね。


家族がいて、仕事だって楽しい。


…身体も今のところ健康だし。


…まあ、幸せだって感じない日々を過ごす事が、


本当は幸せな事なんだって、


誰かが言ってたのを聞いた事があるよ。


…人は本当に幸せな時、


自分が幸せだって気が付かず、


無意識に幸せに溺れてるんだって。


…深い言葉だな、って思ったけど」






修吾先生の言葉を黙って聞いた。




そして、修吾先生は私の目を見つめた。





「…幸せかどうか。


考えるって事は、


彗ちゃんは幸せじゃないからかな」




「私の幸せって、何だろう。


…今までは考えたことなかったの。


じゃあ私は、


記憶を失っていた頃の方が幸せだったってことかな」







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双子  記憶喪失  幼なじみ  火事  切ない