不思議の国のアイツ -暴走族総長純情伝-
第1章:懐かしき街の新たなる生活
第1節:引っ越し
「この街も久しぶりね。」
母親が助手席の窓を開け、外を眺める。
「そうだな。」
父親は前を見て運転しながら答えた。
「ルミも懐かしいでしょ?」
母親は後ろの席で静かに窓の外を眺めていた私にも話しかけてきた。
「私は、高校の入学試験の時に1回来たから、別に懐かしくないよ。」
「そうだったわね。」
母親は、懐かしい街に少し興奮している様子。
私はといえば、中学校の友達と別れなくてはいけなくなって、本当に悲しかった。
「10年経つとやっぱり街並みも変わるわね。ルミも昔の友達に会えるからうれしいでしょ?」
私は、能天気な母親に少し腹を立てながら睨みつける。
「そんなわけないでしょ!6歳の頃の友達なんて、もう覚えてないわよ。」
「・・・もう、この子はいつまで怒ってるの?しょうがないでしょ、高校生で1人暮らしなんかさせられるわけ無いんだから。」
母親も私の不機嫌さに腹を立て始めた。
「まあ、いいじゃないか。ルミも中学の友達と別れなくちゃいけなくて悲しいんだから。」
父親が私と母親の仲裁をする。
それからしばらく、車の中の空気は最悪な雰囲気のまま、懐かしき家へと到着した。