不思議の国のアイツ -暴走族総長純情伝-



「売ろうかどうか迷ったけど、残しといてよかったな。」


車から降りて、10年前まで暮らしていた家を見ながら父親がつぶやく。


引っ越しでよかったことと言えば、狭いアパートから一軒家に戻れたことぐらい。


「人に貸してたんじゃなかったの?」


少し機嫌の直った私が父親を見る。


「ああ、たまたま1年前に貸していた家族も引っ越してな。その頃、会社で転勤の話が出始めてたから、それ以降は誰にも貸さなかったんだよ。」


父親が私を見て優しく微笑む。


「・・・そんなに前から転勤の話でてたの?」


「そうよ。お父さん、本社に栄転の話なのに、ルミが高校に入るまで待ってもらってたのよ。・・・まったく、これからの出世に響いたらどうすんのよ。」


相変わらず、母親は機嫌が悪そうにブツブツと私と父親の話に入ってきた。


(別にそれは私のせいじゃないでしょ!)


私は、心の中で思ってはいたけど、あえて口にはださなかった。


これ以上、母親の機嫌を損ねると面倒だったから。


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