天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「やはり…手っ取り早かったな」

魔界と人間界をわける結界の近くに、カレン・アートウッドはいた。

月影バトルで、己の未熟さを知ったカレンは、自らの経験値を上げる為に、魔界に近く森に潜伏していた。

九鬼と別れてから、すぐに森に入り、寝る間も惜しんで戦い続けていた。

魔物を倒す度に、その血の匂いに釣られて、新たな魔物が次々に現れていた。

ずっと着ている学生服も、ボロボロになってきていた。

しかし、着替えを持ってきてはいかなかった。

汗臭くなると、泉を探し…服を洗った。

その間、全裸になるが…魔物しかいない森である。

襲われても、全裸で戦った。

今日もそうだろうかと、たかをくくっていたら、


「す、すいません!」

なぜか…人間がいた。

それも、男である。

「え」

全裸で構えたカレンのすべてが、丸見えだった。

男は少し視線を外すと、

「あ、あのお…大変な時にす、すいません。少しお話をしたいのですが!」


「…」

一瞬、思考が停止したカレンの頭が動いた時、思い浮かんだのは、

(この男を斬る)

だったが…流石にまずい。

「う、後ろを向いて、待ってろ!」

男口調になったカレンに言われ、慌てて男は回れ右をした。

男が見ていないのは、確認すると、洗濯中の学生服を手に取った。

勿論、乾いていない。

いつもは、そのまま…木の枝にでもかけて、自然乾燥を待つのだが、時間がない。

仕方なく、プロトタイプブラックカードを取り出すと、魔物で服と下着を乾燥させた。

「よし!」

学生服を着たカレンは、改めてこちらに背を向けている男を見た。

華奢な体である。

少し丸みがあり、鍛えていないことがわかった。

(そんな男が…この魔物がいる森で、何をしているんだ?)

男の背中を凝視しながら、カレンは言った。

「もう振り向いても、いいですよ」

< 33 / 1,188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop