いちばんの星
第二章 ふたりきりの時間

突然の指名



――――――


――コンコンッ。



いつも通り公務をこなしているヴェルヌの部屋に、ノックの音が響く。



「私です」

「スティークか。入れ」



「失礼します」と入ってきた男は、ゆるくウェーブのかかった薄茶色の髪を後ろで無造作に縛っている。



「お前…」



部屋に入って来るなりそのままづかづかとヴェルヌの正面へと行くと、口元に手を当てぶっと吹き出す。




「ずいぶん派手にやられたなぁ」



ヴェルヌの赤く腫れた頬をまじまじと眺めるとスティークはこれでもかというぐらい大笑いした。



その様子に、部屋に入ってきたときのようなかしこまったものはない。



「それ以上言うとクビにするぞ…」



怒りのこもった声でヴェルヌがそう言うが、スティークは笑いを我慢できないでいる。



「悪い悪い。しっかし、お前が叩かれたのなんて初めて見たよ」



そう言いながらスティークはヴェルヌに頼まれていた氷を手渡した。



スティークはサヴィアーノの近衛隊長であり、ヴェルヌの幼なじみでもある。



ヴェルヌが心を開いている唯一の友人で、ふたりきりの時は身分など関係なしに昔のように普通に話してほしいとヴェルヌから言ったのだ。



そのためふたりはこうして公務室で他愛もない会話をする事がよくあった。



「で…どうする?国王に手をあげたんだ。死罪にするか?それともどこかに幽閉とか…」



たとえ女性とはいえ国王であるヴェルヌを殴ったのだ。



かわいそうだけど相手が悪い、スティークは少しだけ会ったことのない使用人を哀れんだ。



「いや、もうどうするか決めてある」



まるでこれからいたずらをする少年のようにヴェルヌがにやりと笑った。



(こいつがこの顔する時は大抵面倒くさい事になるんだよな)



スティークは呆れたように笑うと「では」と軽くお辞儀をし部屋を後にした。




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