ことばにできない
7.半信半疑
近所の誰かが救急車呼んでくれた。

母は、市民病院の救急センターに運ばれた。


丘の上にそびえ立つ、ピカピカの、お城みたいな病院。

みすぼらしい私たち母子とは、釣り合わない。


アルコールの匂いをぷんぷんと放っている母が、恥ずかしかった。
病院スタッフは誰も非難めいたことを言わず、てきぱきと処置をしてくれた。

母はその日のうちに、ある程度落ち着いた。
それでも少なくとも一晩は入院が必要と言われ、私は一人でアパートへ戻った。


窓を大きく開けた。

部屋の中に大した荷物はない。

ただ、ゴミが散乱していた。

私は部屋を片付けて掃除した。




母は入院した。

今夜私は、母から解放された。

すっきりした部屋で、布団を一組だけ敷いて寝た。

私はたぶん、物心ついてから初めて、熟睡した。

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