千里ヶ崎の魔女と配信される化け物





「どうしたのかな、皆川くん。この部屋は暑いかな?」

「いえ、別に」

「じゃあどうして、そんなに汗を掻いているのかな、君は」

『どうして』の理由はわかっているくせに、わざと訊いているようだった。

「さて、どこまで話したかしらね」

と、千里ヶ崎さんはまた仰向けになると、ひたいにこつん、こつん、本の背表紙を当てた。

「そうそう、夕方は、化け物はいずこからか配信されてくる、とまで想像したんだったね。やっとここまで戻ってきたわね。私はね、皆川くん。その化け物は、無差別殺人に偽装した、明確な殺意の現れだと思うんだよ」

こつん、こつん。

「化け物が一匹なら、それを操る術者の技量も、わずかですむ。代わりに、化け物自体の性能をいじればいいの。配信する化け物も、最初は適当なところからでいい。結果として標的を仕留められればいいのだから、標的に関連した媒体に感染、もしくは乗り移れるならね」

「それがケータイですか」

「私の想像ではね。ほら、話したでしょう。ケータイ依存する人間は多く、画面に食い入ることも多い。感染媒体にするには、もってこいだよ」
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