君へ
赤い 赤い夕陽を背に幼い子供が二人。
河原の土手を歩く。
ふたりとも口を開かないで、静かに歩く。


私の、愛しい、愛しい記憶。


相良透尚。
私の名前。
お母さん以外にもうひとり、大切なひとが褒めてくれてから嫌いではなくなった名前。

私は秋の日差しも陰ってきた放課後、家に帰りたくなくていつもの居場所、中学校の離れにある図書室にいる。
年季の入った古びた旧校舎にある図書室は人気がなく授業等必要がない以外あまり使われない。
一番奥の六人掛けの席に座り勉強する。
受験生だし、知識を身につけるのは彼に少しでも近付けるようでうれしい。


小学四年生の五月。
もうクラス替えも終わり、新しいクラスにも少し馴染んで大体のグループが出来上がりつつある頃、季節外れの転校生がきた。
『-----くんだ。お家の都合で引っ越してきた、みんな仲良くするように』
後で聞いたらみんなの前で言った名前、本当じゃないんだよね。
名前を大体的に広めると彼の身が危ないと苗字は母方の旧姓で下は弟の名前だとこっそり教えてくれたね。
私は、秘密を教えてもらったのが嬉しくて理解出来ていなかったね。
理解する能力があればこんな片田舎の公立校に来てまで名前を言えないような身の上なのだと。
そしてそんな身の上で田舎にこなくてはいけない程彼の近辺が危ういのだということ。
気づけなくて、ごめんね。
洗練されたその姿にみんなが感嘆と羨望の黄色い声をあげてたね。
でもその時の私は落ち着きがなく、周りを見る余裕がない。意味もなくきょろきょろと代わり映えのない教室の壁の染みを流れるように見ていた。
知らない間にあなたは私の席の隣。
空いていた一番窓際の後ろの席になった。
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