君へ

白いシーツに広がる細く茶色の髪。
綺麗なつやをだして指に絡まりもせずに落ちてまたシーツの波に広がる。
綺麗な黒目がちの瞳が収まる瞼は今は閉じられ、長い睫毛に縁取られ頬に影を落とす。
外にいたのかと疑いたくなる白いきめ細かな肌とそこだけ淡く色づく唇。
小学生の頃もとても可愛かったけれども、あのまま止まらないで不安になるくらい綺麗になっていた。
「なお」
自分のとは思えない優しい声がこぼれる。
なおと接する時は無意識に優しくしたいという気持ちがでて口調が柔らかくなる。
「なお、ごめんな」
早く、来たかった。早くなおを取り巻く全てのことからなおをさらいたかった。
でも俺は無力なガキでなおの事を思って涙して、やつのなおに対する仕打ちを思うとぞっとして眠れない夜を過ごしてばかりだった。

「ごめんな」

知らず涙がこぼれる。
毛布からでた小さな掌を両手で包む。
あの頃は同じくらいだったのに、今は片手でも包めちゃうくらい小さい。
細い首。
小さな肩。
華奢な体。

ひとりだといつも食欲がないとあまり食べていなかった悪癖が残っているのか同世代の女子に比べても細いと思う。

触れたら折れてしまいそうなはかなさだ。

「なお」

このまま目を醒まさないのではと怖くて声をかける。
でも理性では呼吸も安定しているし医者にも見せたと安心している自分もいるのでぽつりと枯れ葉が落ちるような小さな声で呟く。


でもそんな小さな声に反応したのか睫毛が震える。

「ん……」

可愛い吐息を吐いてゆっくりと目覚める。

「と…わ…くん…?」

小さな甘い声で言われると耳が痺れるように歓喜する。
全身がなおを感じようと細胞が活性化するのが分かる。

「なお。そうだよ。永久だよ」

そういって上半身を起こしてまだ覚醒しきっていない彼女の両手を掴む。

「?」

何をするのか分からないというように幼い仕種で小首を傾げる姿がまた可愛い。
朝に弱いのかもしれない、と新たに記憶する。

「なおを、さらいにきた」

なおを見つめながら、そっと包んだ両手にくちづける。

丁寧に、優しく。
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