君へ

「なおを、さらいにきた」
起きたばかりの私に、掛けられた言葉。
驚いて声もでない。
元々朝は苦手だ。
普段も起床して10分は体も頭も動かない。
「なお、驚かせてごめんね」
あまりにも動けない私に上から心配そうな声が掛けられる。
謝られて驚いて顔をあげる。
謝罪するのは私の方だ。
覚えていないが、覚えていないという時点で沢山の迷惑をかけたという事が分かる。
「っっっ」
自分の情けなさに涙が自然と溢れ、堪えようと唇を噛むと思わず嗚咽がもれる。
ごめんなさい。
次会う時は迷惑を掛けない。
助けられるのでなく、助けたい。
そう、思っていたのに。
また、迷惑をかけてしまったね。
「ごめ…なさ…っ」
「なお、どうして謝るの?」
「……っ」
嗚咽が抑えきれずに声が出せない。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。

迷惑掛けたくない。
助けられたくない。
自分から近付いちゃいけない。
彼のためにならない。
分かっているのに、少しでもと、浅ましく縋る。
結局自分のことしか考えられない。
利己的な私。

ごめんなさい。

「なおが、欲しいんだ」

ああ。

また、私の欲しい言葉をあなたはくれる。

「なお、おれのものになって」

いつの間にかあなたはベッドに片膝を乗せ、顔を寄せてきていた。
嬉しくて体を動かせない。
仔犬がじゃれるように軽く額と額がつく。
あの頃と変わらない温かい熱が伝わる。
嬉しくて悲しくて涙が溢れてくる。
ねぇ、永久くん。
あれから5年経ったね。
私、永久くんには及ばないけど勉強頑張ったんだよ。
頭悪いけど、それでも、分かっちゃったんだよ。
永久くんはこんな所で立ち止まっている立場じゃない事。
私なんかと関われば関わる程マイナスになる事。
私は邪魔な存在でしかない事。
「なお、ちゃんと準備したんだ。一緒に暮らそう」
永久くん、私馬鹿だけど分かるよ、私が永久くんの傍にいちゃいけないってことくらい。
私が、あの幼い時にあなたに言ってしまった言葉がいけなかったんだよね。
ごめんなさい。
助けて。
一人にしないで。
幼いあなたはとても優しくて、こうして約束を守ってくれた。
でも私がいたら絶対不利になるよ。
「なおは俺のことキライ?」


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