君へ

この学校は市立だけど成績低迷に歯止めをかけるという教育委員の意向により成績順に席が決まる。
教師の居る教卓から円周に成績が良い順に席が決まる。
落ち着きがなく情緒不安定な私は成績はクラスもとより学年で一番低い。
そのせいで馬鹿にされたり虐められるのは日常だった。
席も最下位のクラスの一番後ろの端だった。
可哀相に前の学校の成績が反映されたのかしないのか、彼は一番成績の低い私よりも更に教卓から離れた窓際の席。
彼に黄色い声をあげていた女子の事もありこれみよがしにあちらこちらから小さく男子を中心に馬鹿にしたような嘲笑がさざなみのようにゆっくり彼が歩く度に広がる。
私はそのさざなみにも気付かず隣に立って見下ろす彼に上目使いによろしく、と小さく声をかけた。
彼も小さくよろしくと応えてくれた。
嬉しくて口許が少し綻ぶ。
他人には分からない程度だが。
一時間目は国語だった。
早速漢字テストだ。難しかった。
大丈夫だろうかと彼を見遣ると、彼はテスト用紙を全く見ることなく快晴の空を見上げていた。
他人事ながら心配になる。
点数が悪いと虐められてしまう。
分からないなりに書いてみた解答用紙をずらして彼から見易いよう動かす。
気付かないのならそれでよかった。
だが彼は気付いたらしい。
少し目を見開いて用紙を見た後私を見た。
一瞬視線が絡む。
あまり他人の目を見る機会のない私は驚いてすぐそらす。
緊張していやな汗もかいてしまった。
彼はそんな私を見て(もう私は見えていなかったけど)口角をにやりとあげると手早く解答用紙を写した。
そしてその日の放課後担任教師に職員室に私と彼は早速呼び出された。
間違った私の漢字をそのまま書いたのですぐにこのカンニングはばれたらしい。
最初少し小言を言われただけですぐに教師は彼だけに熱をいれて話しだした。
『……君なら……こんなテス……どうし………』
激しく段々感情的になる教師。
聞き辛い声ながら朧げに彼は頭が良く私なんかの助力が必要も無かったということだけは理解できた。
なんだか虚しくなった私に更に追い撃ちをかけるように教師の声が突き刺さる。
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