君へ

11

がらっと目の前のドアを開ける。
建て付けが悪く音が鳴る。
そのお陰で授業を受けていたクラス内の視線が集中する。
「あ、ああ相良か。どうした」
丁度クラス担任の英語教師、澤田の授業だったらしい。
気付かれ声を掛けられる。
「すみません。体調が悪くて」
嘘ということではないが永久くんのうちから学校まで考えてきた当たり障りのない理由。
「もう、大丈夫なのか?」
特に心配しているような声ではないが一応はい、と応えるように頷くと廊下側の自分の席に着く。
そして何事も無かったように教材を用意し、黒板を見れば、動揺していたクラスも徐々に安定していく。
中傷や悪態、好奇の目は殆どは無視で解決だ。
無反応を続ければそのうち相手にされなくなる。
永久くんがいなくなってから自分なりに出した結論。
永久くんがいなくなり最初は手を出していたクラスメートも、忍耐力ではあの人の虐待をほぼ毎日受けて通学する私に勝つ者等いない。
次第に少なくなり小学校を卒業する時には私に関心を払う人はいなくなった。
その事で不便はない。
「起立」
無意識にペンを走らせていたが、いつの間にか授業も終わりのようだ。
形式通りの挨拶をして席に着く。
ざわめく教室。
私は4時間目に入ってきたのでもうお昼休みだ。
皆好きな席で好きな態勢でたわいもない話しを弾みながらお弁当を広げる。
私もかばんから、と思ってかばんに触れてから今朝を思い出す。
朝ご飯を食べ終わり部屋に戻る。
永久くんに学校はどうすると聞かれ迷惑でなければ行きたいと告げる。
朝の失態を思い返すとまだまだ私には知識も知恵も足りない。
彼の側にもう少しだけ置かせてもらえるのならせめて迷惑は掛けない程度にもっと成長したい。
永久くんは一日くらい休んだらと心配してくれたけど学校の用意をしてくれた。
何故か新しい制服とあの家に置いてある筈の勉強道具とかばん。
制服はこの家の後ひとりの住居人のモノらしい。
私のは今洗濯中とおどけて永久くんが言ってくれる。
昨夜の騒ぎで汚れたのだと思い出させないようにとの思いやりに胸が温かくなる。


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