君へ

調べておいたなおの教室に向かうと入り口から溢れるくらいの人だかり。
キャンキャン女の声と男の声が教室から廊下まで漏れてる。
私服で部外者だけど構わず人の波を抜けて前にでると一人の女の子を囲うように人垣が出来ていた。
まさか、と思っていたがなおは輪の中心にいた。
なおに似合わない冷たい声と瞳で必死に対峙していた。
興奮している男を更に煽っていた。
理性を忘れてすぐに暴力に訴えそうな男にだ。
なおだって怒りを煽り続けたらどうなるか分かっているようで歯を食いしばり衝撃に堪えるように手を握る。
「なおっ」
人を押し退けて走る。
ぱん。
乾いた音が響く。
セーフ。
男の拳は俺の掌。
なおは勿論もう片方の腕の中。
おいおい女の子相手に拳かよ。
本当最低な奴だな。
ふーっとため息をついてまずはなおの確認。
「なお大丈夫?」
「永久くんっ」
相当驚いたのか大きい瞳を更に見開いている。
でも怖かったんだろう瞳は潤んでて体はまだ震えていた。
佐藤タカシだっけ?
忙しくて放っておいたけど片付けなきゃなぁ?

なおにもう一度大丈夫?と尋ね額を合わせて安心させると態勢を立て直した奴に向き直る。
「佐藤タカシだっけ?なおのストーカーやめてくれない?」
口角を皮肉っぽく引き上げる。
「昨日も勝手について来て、なおと俺一緒に帰る筈だったのに」
そう。
お前がいなければなおは通常通り7時過ぎまで図書室に居り俺が迎えに行ってあんな危険な事する必要が無かった。
「なおにフられたからって嘘言ってイジメはないでしょお」
皮肉気に上げた口角を更にゆるゆると上げる。
許さないからね。
ざわっとクラスが揺れる。
「なお、迷惑してるんだ。俺のものなのに」
そう言ってなおを抱き寄せ頭のてっぺんに近い髪に触れるだけのキスをする。
なおは、もうこんな醜い奴見せないように俺の掌で瞼を塞がれて抱きしめられているから多分何も分からないだろうけど。
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