君へ

彼とはその後、放課後一緒に遊ぶようになった。

クラスには意味もなく騒がれると煩わしいので秘密にしようという事になった。
なんだか秘密という言葉もどきどきしてくすぐったく胸を騒がせた。


彼とは河原に続く道で待ち合わせてそのまま土手を散歩したり、彼の大きな、でも誰もいない家に行って勉強したりした。

『なおは、勘違いしてるんだよ』
なおは私のこと。
相良だと固っ苦しいしなんて呼ばれたい?と聞かれて思わずお母さんだけ呼んでくれていた名前がいいと言ってしまった。
だめかな?と恐々伺うと最近ふたりだとよくしてくれる真昼の太陽のような明るい笑顔で
『なお』
って呼んでくれた。
とても、とても嬉しかった。

もう、私の名前をちゃんと呼んでくれる人はいないかも知れないと思っていたから。



『かんちがい?』
小さな声で聞き返す。家でも、学校でもここ3年近くまともに喋っていなかったから、私の語弊は少なく、拙い。
自信がないから声も弱々しくなる。
彼が根気強くしっかり私の話しを聞いて応えてくれるからこれだけ話せるようになった。

『そう、勘違い。なおちゃんと聞こうと努力してるけど九々とか基礎が出来てないから』
それに無理矢理積み重ねても難しいよね。

と優しく笑ってくれた。

ちゃんと勉強して賢くなってあんな馬鹿なやつらに虐められないようにね


きっと長くは一緒にいれないと分かっていた彼は、私にも見えていなかった私の未来をしっかり見据えてくれていた。



< 4 / 48 >

この作品をシェア

pagetop