君へ

「なにやっているんだぁぁぁっっ」

あの人が出て来た。もう酔っ払っているようで目がおかしい。
私は思わず恐怖で足に力が入らず足元に崩れてしまう。
もう体が覚えてしまった。
この声を聞くと体が竦む。
動かなくなる。
生徒会長もあまりの私の変わりようとあの人の怒り具合に蒼白になって門から離れている。
もうあの人は生徒会長を見ていない。
振り下ろされた手が私に下りた時生徒会長はひっと悲鳴をあげて更に家から飛びのいた。
あの人は私にまたよくわからない言葉を怒鳴りながらへたりこんでいる私を引っ張るとずるずると玄関まで引きずり込む。
石の階段に門から少しなっているので段差と砂利が更に体を痛めつけて悲鳴がもれる。
涙で霞む目が閉じられる玄関のドアの隙間から生徒会長が逃げ出すのが見えた。私は分かっていたことなのでむしろ涙より笑いがでた。
だから、近付くなといったのに。

ばんっっ。

という衝撃で意識があの人に戻る。

最近はギャンブルに勝っていたのか機嫌がよかったのに。
その反動のせいか今日はとてつもなく最悪な気がする。
あの、事故が起きた日のようだ。
「っい」
と思わず声にならない悲鳴が喉につまる。一段段差がつく玄関の石畳からフローリングに上半身を乗せてじりじりと逃げる。
無駄と分かっても。でもあの人は声を荒げないで私を見てる。
私の擦れて捲れたスカートから伸びた足を。
いつもは暴力による恐怖しかないのに更なる恐怖が頭を過ぎる。
まさか。
一応、義父親でしょう?
でも、望みは伝わらない。
「くそっまた負けちまった」「色気づきやがってあんな小僧とっ」「面倒見てやってんのに」
嘘。小学一年生の時母の再婚で家にきて、母のいる間はまだ被っていた仮面も母が事故で死んだらすぐ剥がして。
母の保険金と遺産の受取人の私を引き取ってお金だけとって暴力と恐怖で虐待した。

いやだ。やめて。

なぜ胸を触るの。
ボタンを外していくの。
いやだ。いやだ。恐い。
『なおを、守るよ』
----くん
『なおを、絶対守るよ』
----ゎくん

「永久くんっ助けて」
小さな声。
他の誰にも届かない声。
でもあなただけ聞いてくれる
私の声を---…
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