紅芳記
伍.小田原征伐

春、弥生のはじめ頃に殿に呼ばれてお部屋に参りました。

殿はひどく難しいお顔をされ、何事かとおもい、殿のお傍により

「殿、如何されました?」

と尋ねました。

「あぁ、小松か。」

「かように難しいお顔で。
なにかございましたか?」

「……戦じゃ。」

戦…。

「左様にございますか。」

「あまり驚いておらぬようじゃな。」

「いえ。
驚きすぎてなんと申したものかと。
して、どことどこの戦にございましょう?
殿も出陣なされるので?」

「豊臣と北条じゃ。
ついに秀吉殿は天下を取りに行かれるおつもりじゃ。
わしも、父上とともに北国勢に加わるようにとの沙汰があった。」


< 133 / 454 >

この作品をシェア

pagetop