君を愛す ただ君を……
理想と現実
あたしは、鏡の前に立って、いろいろと髪型を変えては、自分の顔をじっと見つめた

越智君とのデートのとき、どんな髪型にしようか

どんな髪型が、可愛く見えるのか…縛っては解き、解いては縛っていた

きつく縛ったオダンゴの髪を解くと、肩にぱさっと落ちた髪を櫛で整えた

どんなのがいいのか…わからないなあ

自分の顔って、他人からどう見えるのかってわからないから

どんな髪型が可愛く見えるのかってよくわからない

あたしは洗面所の引き戸を開けて、廊下に出た

『……代が、払えそうにないのよ』

ママの声が、あたしの耳に入ってきた

すごく苦しそうで、悲し気な声だったから、あたしは思わず足を止めてダイニングのほうに耳を傾けた

『陽菜が手術を受ける気になっているんだろ?』

パパの低いテノールの声が聞こえてくる

『ええ。だから絶対に、受けさせたいのよ。越智先生は心臓外科の医師としてとても有名な先生で……』

『入院費も、手術代も高いのか?』

『そうなの。息子の友人だからって言ってくれて、幾分かは安くしてくれているみたいだけど…ねえ』

パパとママの会話が静かになった

ギシッと椅子の引く音がした

『優秀な先生だから、きっと治してくださるって思ってるわ。でも…』

『大丈夫だよ。大樹と婚約をするんだろ? 大樹の家なら……』

『陽菜は大樹君とは結婚しないわ』

『なんだって?』

『他に好きな子がいるのよ。越智先生の息子さんと付き合ってるみたい』

『じゃあ…婚約は?』

『ナシね』

ガタンと何かが落ちる音がした

あたしはダイニングのドアに背を向けると、階段を上りはじめた

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