雪に埋もれた境界線
第八章 全員のアリバイ
 候補者四人は、食堂をバラバラと出て行った。

 食堂を出る時、時間を確認したが、サロンに集まる午後三時までは二時間と少しだったので、陸は部屋で一人になって考えようと二階に向かった。

 自分の部屋に入ると、すぐベッドに腰掛けた。
 一人が疑心暗鬼に捕らわれ、それを口に出した途端、聞いていた者達も同じように疑心暗鬼に捕らわれてしまう。ウィルスのような心理の連鎖は厄介だ。

 陸が溜息を吐くと同時に、扉をノックする音が聞こえた。その音は遠慮がちで弱々しく、もしかしたら落ち込んでいるかもしれない久代ではないかと予想した。

 扉を開けると、化粧が崩れ、目の下が真っ黒でパンダみたいな顔をして久代が立っていた。


「ごめん、入っていい?」


 力のない声でそう云うと、久代は陸の顔を見た。


「いいよ。どうぞ」


 なるべく明るく答えると、久代は元気のない足取りで陸の部屋に入った。

 
「適当に座っていいよ」


 陸がそう云うと、久代は机の前にある椅子に腰掛けた。


「陸も私が偽者で、犯人だとか思ってるわけ?」


「今は誰が偽者で、犯人だとか疑っていないよ。まだ疑えるほど何も分かってないじゃない」


 久代に不安を与えないよう、陸は明るく答えた。


「そっか。木梨さんも座間さんも、何だか別人みたいになっちゃったね。陸だけが変わらないから安心した」


「木梨さんと座間さんは、連鎖的に疑心暗鬼に捕らわれてしまったんだろうね。候補者の中の一人が殺されたとなると、そうなるのも無理はないだろうけど」


「じゃあ陸は何で冷静でいられるの? 陸が犯人だったりして」


 久代は少し落ち着いたのだろう、悪戯っぽくそう云った。
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