アリスズ

祭り


「それが…手土産か?」

 景子が荷馬車に積み込んだ皮袋を、ロジューは蹴っ飛ばした。

 ガシャンと耳障りな音を立てる。

「ああっ、危ないです!」

 景子は、慌ててその暴挙を止めた。

「硝子?」

 ロジューの視線が、景子を見下ろす。

「割れた硝子です。工事のところで、事故で割れた分を、無理を言って職人さんにもらったんです」

 硝子は、再生が効く。

 だから、職人は割れた硝子を普通は持ち帰り、再び溶かして硝子にするはずだった。

 それを、景子はお願いして集めていたのだ。

「割れた硝子も、お前にとってはお宝というワケか…出せ!」

 いつもより、荷馬車には多めの荷物を積み、人の座れる範囲が狭くなっている。

 祭に出るための衣装や、アディマへの贈り物などが積み込まれているようだ。

 叔母としては、出るからには恥ずかしい真似は出来ないのだろう。

 景子も、一時的に都へ返してもらえることになった。

 温室の工事が、中断してしまったおかげだ。

 一度、ちゃんと居候をさせてもらっている屋敷や、農林府に顔を出して、状況を説明しておきたかったので助かっていた。

 そんな景子を乗せて進む、荷馬車の後方から見える景色は。

 人で溢れていた。

 こんなに大勢が、都を目指すところなど、想像できないほどに。

 それほど、民は祭を楽しみにしているのだろう。

「私の祭が、30年前だったからな…みな、待ちわびていたのだろう」

 荷馬車の後方に見える人々の明るい顔に、ロジューは目を細めた。

 呼び出しは面倒くさがっていたが、人々の嬉しい顔を見るのは心地よいものなのか。

 だが。

 あれ?

 景子は、一つひっかかった。

 20歳になって、都に入って初めて旅が成功して祭りになるということは。

 ロジューの年齢は。

 20+30=??

「その目を私に向けるのをやめないと、そこから放り出すぞ」

 声に、わずかな迫力がこもったことに気づき、景子はアワワと荷物の影に隠れようとしたのだった。
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