アリスズ

二つの道


 夜明け間近に町を抜けると、辺りは深い森になった。

 朝日が昇ってきたらしく、少しずつ光は入ってくるものの、そこは薄暗い。

 しかし、景子には朝に目覚めた木々が、生命力豊かに輝いているのが見えている。

 見なれない種類の木々、植物。

 彼女は、アディマたちとはぐれてしまわないよう、気をつけなければならないほど、周囲の植物に夢中になった。

 途中、やや斜面がかったところにハート型をした葉を見つけ、抜いてみたい衝動にかられる。

 イモ系の葉に、とてもそっくりだったからだ。

 あの地面の下に、同じようなイモがあるのではないか。

 そんな好奇心を押さえられなかった。

 だが、旅は進む。

 心を残しながらも、景子はアディマについて行くのだ。

「なあ、ダイ…どこへ向かってるんだ?」

 当たり前のように日本語で話かける菊に、ダイが反応するより先に、もう一人の男が振り返った。

「───」

 少し険しい表情と言葉。

 何か、説教をしている風にも聞こえる。

 景子が反応できずにいると、菊が嫌そうにあらぬ方を向いた。

 男はため息をつき、しぶしぶと言った感じで、己の胸に触れる。

「リサードリエックリンバー…」

 彼が、どうやら自己紹介をしているということに、ようやく気付いた。

 やっぱり長い。

 フルネームだとしたら、どこで切ったらいいのか分からない。

 そして、同時に景子は気づいた。

 菊が、これまで一度も名乗っていないことを。

「菊」

 対する日本人の名前の、なんと短いことか。

 リサーは、呆れた顔をした後。

「キキュ…」

 見事に──噛んだ。

 ぶふっと。

 あのダイが、笑った。

 アディマも、笑った。

 女性だけが、違う方を向いたまま歩いているが、微かに耳が赤くなっている気がした。

「ゴホン…」

 リサーは、大きく咳払いをして何故か景子を睨んだ。

 何で私にとばっちりーーっ。
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