ゲイな彼と札束
バスルーム




明け方、4時過ぎ。

あたしは一人こっそりマンションを出た。

台風は去ったが、湿って生暖かい空気が全身を包む。

できるだけ音を立てないように鍵を閉めると、胸と目頭がじわっと熱くなった。

微かに明るんだ東京の空。

汚れた空気と湿気で淀んだコンクリートジャングル。

マンションの外廊下から数秒だけ街並みを眺めて、あたしはエレベーターへと歩き出した。

荷物は小さなコーチのバッグと服屋の紙袋。

バッグには財布とタバコ、そして95万円の札束。

紙袋にはマモルが買ってくれた服や下着が詰め込んである。

赤い携帯はテーブルに置いてきた。

短い置手紙を挟んで、残り200万円の札束の上に。

手紙にはこう書いた。

「今までありがとう。大好きでした」

エレベーターでロビーに降り、郵便受けに鍵を入れ、歩き出す。

ここに帰ることは、もうない。

< 111 / 233 >

この作品をシェア

pagetop