もてまん
誤解

繁徳は、千鶴子に再訪を約束して部屋を出た。

エレベータを降り風除け室へのドアが開いた時、

(えっ、舞?)

そこには舞が、仁王立ちで、ドアの前に立ちはだかっていた。


「何で、お前がここにいるんだよ?」


繁徳は、唐突にもそう口にしていた。


「カラオケ行こうと思って歩いてたら、シゲがこのマンション入っていくのが見えた」


返ってきた声は、いつもの明るい舞の声とは全く違う。


「そ、それからずっと、ここにいるのかよ……」


あまりの気迫に、繁徳はうろたえた。


「シゲ、二時間もどこ行ってたんだよ!

花なんか持って!

婆さんの慰問だなんて嘘。

ОLのツバメやってんだろ?」


(うわぁ、すげぇ想像力)


舞は声を押し殺したように凄んで、すごい剣幕だ。


「嘘じゃないよ……ここ、親戚の婆さん家」


繁徳が様子を伺うと、舞は肩はこわばらせて震えていた。
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