もてまん
初めての訪問


繁徳は大通り沿いの花屋に立ち寄ると、紫色の小さな三百五十円のミニブーケを買った。


何か手土産でもないと、流石に行きづらいと感じたのだ。


ロレアルマンションは大通りを登りきったところにあった。


意外にもそこは、繁徳がいつも前を通っている場所。

千鶴子に会わなければ、気付づくことなく通り過ぎていた場所。

ちょっと古風な、ベージュのタイル貼りの大きなマンション。


繁徳は、自然と七年前に死んだ繁徳の祖母のことを思い出していた。

繁徳の祖母は、神楽坂で、これとよく似た古風なマンションに一人暮らしをしていたのだ。

何がこの建物を古風に感じさせていたのか。

それは、タイルが一枚一枚貼ってあるこの感じ、大きな建物なのに、その壁を良く見ると人の手が感じられる。

壁の表面が均一でなく、微かに波打っている。

そんな立ちはだかる建物の持つ存在感が、繁徳に昔を思い出させていた。

そして、久しぶりに祖母の姿を思い出すことで、繁徳は千鶴子への不思議な親近感を抱き始めることになる。
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