とろけるチョコをあなたに
 だが、いくら菓子作りに対して無知とはいえ、いきなり難易度の高いものを持ってくるとは……。てっきりベタな型抜きチョコかトリュフあたりだと思ったのに。

「もしかして、陣でも無理なのか? それを作るのは」

「誰に向かって無理と仰っているんですか絵理サマ」

 無理と問われて闘争心に火がついた。

 幾多の客を唸らせて来たオレの菓子作りの腕前をなめるなよ。

 こうなったらあの生意気な青司が平伏(ひれふ)すような菓子を作ってやる。

 ククク、青司め。オレの日ごろの恨み妬み嫉みを思い知るがいい。

 後で冷静になって考えるとかなり間違った方向に思考が行ってるのだが、熱くなった頭では気がつかない。

 こうしてオレは腕によりをかけて恋敵に極上の菓子を作るという妄執に取り付かれてしまったのだった。
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