花の魔女
ドロシーの足音が全く聞こえなくなってから、ドニはやっと我に帰った。
そして急いでラディアンの部屋まで駆け戻った。
「ラディアン様!」
バンッと音をたてて扉を開くと、ラディアンがうなされているのを見つけた。
あわててそばに寄って手を握ったが、ラディアンの様子は変わらず、苦しげにうなされている。
あの魔女の耳障りな高い笑い声が聞こえてくるような気がして、ドニはキュッと唇を噛んだ。
すると、いきなりラディアンがむくりと上半身を起こした。
「ラディアン様」
ほっとしたのも束の間、ラディアンが扉の方を虚ろに見ているに気がつき、はっとして振り返った。
息を呑んだ。
そこには、いつの間に部屋に入ってきたのか、見たことのない女性が可愛らしく微笑みながら立っている。
印象的な黒い髪が背後から差す月明かりに照らされて輝いて見えた。