花の魔女
男の子
ふわふわと、深い湖の底へ沈んでいくような感覚が体中を包んでいる。
ナーベルはふらふらと森の中をさ迷っていた。
風にざわめく木々、美しい花畑、透き通った泉。
そして――…
(私たちの、家)
いつの間にか森の小屋までたどり着いていた。
ナーベルは懐かしみながら、そっとドアに手をかけた。
木の温もりは、あのときのまま。
ここで4人、楽しく笑って暮らしていたのはそう遠くない日のことなのに、まるで何年も前だったかのように感じる。
あの幸せだった日々はどこに行ってしまったのだろう……
森の霧が小屋を包む中、キィ、と音をたててドアが開く。
懐かしい風景が目に飛び込んできて――
「――…っ」
はっ、と目を見開いた。
部屋の中に佇む、愛しい人の姿。
どうしてここにいるのだろう。
いいえ、今はそんなこと、どうだっていい。
「ラディアン?」
震える声でナーベルが呼びかけると、彼は気づいてゆっくりと振り返った。
驚いた顔、見開かれる青の瞳。
やっぱり彼はラディアンだ。