花の魔女
「昨夜、父から連絡があった。隣国の魔女見習いの娘を持つ貴族が、僕を差し出すように言ってきたらしい」
ジェイクは驚きにはっと目を丸くしたが、すぐに真剣な表情に戻した。
「シャミナード家か」
ラディアンは頷いた。
「シャミナード家は僕と自分の娘を組ませて力を手に入れたいらしい。応じなければ、僕の婚約者を殺すと」
「……正気か?」
ジェイクは今度こそ息を呑んだ。
信じられないという色が顔に浮かんでいる。
ラディアンは自嘲するかのように笑った。
「シャミナード家は権力が強い。もしかするとあちらの国王なんかよりもね。手に入らないものなど、今までなかったんだよ」
だから――、と言い、ラディアンはジェイクとしっかり目を合わせた。
強い意思は、逸らすことを許さなかった。
「もしその時がきたら、ナーベルを頼む」
ジェイクはぼとりと手にしていた剣を落とした。
何か反論しようとも思ったが、ラディアンの有無を言わせない強い目に、ただ立ち尽くすしかなかった。