偽りの結婚
出逢い
すっかり日が沈み、静けさを増す庭。
ホールの賑やかな音が遠くで聞こえる。
庭の横の小道を歩いているけれど、人ひとりいない。
みんな王子のいるあのホールから出たくないのね。
しばらく歩いていると開けた場所に噴水が見えた。
目の前に現れた光景に何度目か分からない感嘆の溜め息をつく。
円形の噴水からは月の光に照らされてキラキラと舞う水飛沫。
噴水を囲んで植えられた花々。
ひっそりとあったその庭は王家の庭というには少し寂しいけれど、とても綺麗な場所だった。
噴水の横のベンチに腰をおろして庭を見つめる。
うちにもこんなに立派な庭があれば良いのに。
噴水から湧き出した水が水面をはじく。
先程の社交界での緊張が嘘の様に穏やかな時間が流れていた。