桃園むくげXX歳である。
ももそのむきゅげ、6歳である。
この年でシたことないなんて、異常である。

朝顔の花の形を愛おしいと思った4歳
円錐という形に究極美を見いだして、異常なくらいに恋をした。

せんせい、あのね。

ももそのむきゅげ、しょうがっこう1年生である。

よろしゅく。

恋というものは──愛情というものとは──
シリカゲルを投下してもしても
いつかは湿気てしまうものなのだろうが
今でもこの初恋は、きれいに乾燥し形を残したまま
私は胸で鈍い輝きを放っているのである。

運命の相手とは
小指と小指の赤い糸で結ばれているという話

どこですり込まれたのか、6歳のレディならみな知っている都市伝説である。

よってわたしの白い小指と
学校のせんせいの指が結ばれていることは
何の疑いもしなかったのである。

円錐の頂点と頂点を向かい合わせた砂時計が
ひっくり返さなければ時を刻まぬように
思い切って告白という決断をした私に
せんせいは優しい笑顔を向けてくれたのである。

せんせいに見合ったおんなになろうと
体操着袋をシックな紺に変えたのだって
一緒に歩くときに、あなたが恥ずかしくないようにと心がけたからだ。

私の小さき指の先に
世界でもっとも美しい銘菓と1時間力説できる
円錐菓子「とんがりコーン」をはめてみる。

これをこの年でシたことがない者は、異常である。

まるで魔女の指先のように尖った円錐の頂点は
うっとりするほどの鋭さであった。

6歳の冬の終わり
離任式にあのひとの姿はない。

ともだちが言っていた。
先生の恋人が、ころされてしまったという。
せんせいはそちらへ赴いたとか。

胸にはあかいバラの花
両目をするどい錐状のもので潰されて
小指は両手とも詰められていたらしい。

せんせい、あのね。

八方美人は良くないわ。

漢字はまだ書けないけれど
むくげは意味を知っているのよ。

子供だと思っていたのなら失礼よ。
挨拶だってちゃんとできるの。

ももそのむきゅげ、6歳である。

よろしゅく。
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