桃園むくげXX歳である。
交通標識、22歳である。
交通標識、22歳である。

非常に勤勉で真面目な黒服である。

朝顔の花の形を愛おしいと思った4歳からはじまり
路上に並ぶ三角コーンが愛らしくて悶えた19歳

それらの感情が「円錐」に機縁することに気づいたのはいつの頃だったか。

護身具はピストルメガホン。

斎院あおい、キャバクラ嬢である。

よろしく。

歓楽街で働くというのは、非常にリスクの高い仕事である。
そんな夜の世界で私を守ってくれるのがボーイ、つまり黒服である。

とある黒服君を私は「交通標識」と呼ぶ。
黒髪黒目、店の中なら目立たないが外に出るとやけに目立つ。

芸術作品の完成に、作者がサインをするように
彼が締め上げた問題児たちにはいつも「交通標識」や「工事用看板」がつまみの飾りの爪楊枝のように突き刺さっている。
それゆえ、私は彼を「交通標識」と呼んでいるのである。

交通標識はいつも表情を変えない。
ただそっとゲストグラスを並べ、
私の散らかした全てを片づけるのである。

非常に勤勉で真面目な黒服である。
そして私も同じように、清く正しい勤勉な夜の蝶である。

静かな歓楽街を、私と交通標識が歩く。
私の右手には不埒なお客様。
彼の左手には「雪崩注意」の交通標識。

なぜナイフにしなかと聞いたら、足がつくと言われた。
合理的である。
彼なりの、一般人への警告サインのようだ。
そのへんに転がっているものばかりである。

交通標識はサインを終え両手が自由になると
私の頬についた汚れをぬぐって
汚れた唇をぬぐい、指の先をぬぐい

あおい

今日も出勤だから、よろしく。

と言付けをした。

彼は左の道へ、私は右の道へ

ここで返事をしないと、無言で迫ってくる。

交通標識は猫の匂いがする。
コンビニでミルクとシュークリームを買いあさっているのも知っている。

意外といいヤツなのである。

黒服、通称「交通標識」22歳である。

よろしく。
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