桃園むくげXX歳である。
桐壺女御、20歳である。
真の価値は有事が起きた時のみぞ知る。

朝顔の花の形を愛おしいと思った4歳からはじまり
路上に並ぶ三角コーンが愛らしくて悶えた19歳

それらの感情が「円錐」に機縁することに気づいたのはいつの頃だったか。

護身具はピストルメガホン。

斎院あおい、キャバクラ嬢である。

よろしく。

歓楽街で働く同性というのは客以上にやっかいな存在であり、誰よりも心の内を吐露できる存在でもある。

私の働く店にも、当然売れっこがいる。
さつさつと客を捌き渋滞知らずに整理する様から
私はその売れっこを「淑景(しげい)」という源名でなく「誘導灯」と呼んでいる。

誘導灯は特にカリスマではない。
店でもいつも奥の目立たぬ席で客と渡り合う。
「淑景空間」と呼ばれる独特の空気を醸し出している。

プライベートも削り
まるで「あなただけの接客に命を懸けています」という
錯覚を覚えさせるほどの徹底振り、見事であった。
まさしく円錐の頂点にあるような完璧っぷりである。

その交通整理のすばらしさから、抱えきれない客を持っていた彼女を
店は珍重したが、店の花たちからは疎まれた。

多くの客が、24時間点滅を続ける誘導灯に惹かれていった。
彼女の意思でないものも、指名替えは御法度である。

存在して当然であるとばかりの誘導灯
真の価値は有事が起きた時のみぞ知る。
当然のようで誰も持ち得なかった空気のような魅力を恐れてか
他キャストたちのピストルメガホンのスイッチに、手がかかった。

美しい酒の注ぎ方と足の組み方
どうしても働かなくてはならない理由があることを
紫煙越しに独り言だと言って教えてくれた誘導灯はもういない。

非常口と描かれた誘導灯が点滅している下で
鈍い明かりに照らされ折れた花。
「通行止め」の標識が彼女の足下に突き刺さっていた。

誘導灯を失いなだれ込んでくる客を受け入れながら、事情を知るであろう黒服、通称「交通標識」はいつものように無口だった。

店でささやかれた禁句のようで、話のネタ

諡(おくりな)は「桐壺女御」

享年20歳

計らずも私と同い年。

さよなら。

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