桃園むくげXX歳である。
柴ヒカル、6歳である。
いわゆる、ベビーシッターである。

朝顔の花の形を愛おしいと思った4歳からはじまり
路上に並ぶ三角コーンが愛らしくて悶えた19歳

それらの感情が「円錐」に機縁することに気づいたのはいつの頃だったか。

護身具はピストルメガホン。

斎院あおい、キャバクラ嬢である。

よろしく。

今日は私の右手を握りしめる子供の誕生日である。

本人の申告によると、今年で6歳になるらしい。

私が6歳の頃は愛情深きレディーであったが、性別が違うと事情も変わるようである。

こうやって子供と共に歩いているが、手を繋いで歩くと歩きにくい。

からといって抱き上げると重く、チョコ菓子アポロより重いものを持ったことのない淑女には苦痛極まりない。

誕生日プレゼントは何が欲しいのかと、子供の右手を握っている男が聞いている。

通称「信号機」、感情が三種類しかない男だからである。
年収5000万のホストなら、子供の欲しいものは何でも買い与えられるだろう。

「誕生日はママに会いたい」

歓楽街無敵の「信号機」も、子供のプライスレスな願いを叶えるのは難しい。
そして実の母がもうこの世にいないことの説明はもっと難しいのである。

「信号機」もたんに子供の母親と知人だっただけで、血も繋がらない子供を養子に迎える享楽モノである。
ママはあおいだろうと赤信号を出すが、子供は真実に正直である。

「あおいちゃんはママじゃないよ」

至極当然である。
14歳で出産した覚えはない。

私はついぞ急逝した店のキャストの子を代理で育てているだけである。
いわゆる、ベビーシッターである。

不機嫌になる子供をあやすのは、「交通標識」が得意である。
行き先を変更する。だが変更不可能なものがある。
私の左手にある誕生日ケーキを食べるくらいの機嫌は残っているだろうか。
せっかく主役用の三角帽子を買ってきたのだから、かぶって欲しいものである。

かつて栄華を極めたキャバクラ嬢淑景

「誘導灯」こと桐壺女御の実子

父親は誰か分からぬが

今は歓楽街最強ホスト「信号機」こと柴翔梧の息子

誕生日おめでとう。

今日から柴ヒカル、6歳である。

よろしく。
< 8 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop