雪女の息子
弐 記者来たる

「編集長、今週の特集って、人気の喫茶店ですよね」

『one life』編集部の会話。
突然振られた話に秀明は話しかけてきた部下に目線をむける。
少し痛んだ茶髪に、良く見かけるありきたりなメイク。ごくごく普通の女。顔も中の中。
白峰絵里。この雑誌の記者の一人であり、昨日は出勤の催促をしてきた。

「だな……。どの店取材するか、決まったのか?」

「はい。最近、女性に人気の喫茶店、『魑魅魍魎』に取材します」

  ――ブッ

口へ運んだ缶コーヒーが逆流してきた。一気に編集部の注目を受ける中で、秀明は白峰に向き直る。
喫茶『魑魅魍魎』。冬矢の店だ。確かに女性人気が高いけど……。

「それで?」

「ただの報告ですよ。すでに許可はとってありますから」

「許可、とれたのか?」

意外な言葉。あまり喫茶店を調べられたくない冬矢が雑誌の取材を受けるとは考えられなかった。どんな妖術を使ったんだこの女。

「はい。オーナーの、由良さんと言う方から頂きました」

「あ、ああ……そう」

由良。由良恭子。冬矢を拾って育てた妖怪。それは感謝もあるが、こうして災難を無表情で呼び込む節がある。
人の家に勝手に上がり込み、ぬらりくらりと気付かれずに飯を食ったり、迷惑がる事をする妖怪。
ぬらりひょん――。

大きく秀明は胸の中で嘆息する。とりあえず冬矢に取材が来ると伝えておこう。
恭子の性格ではおそらく、いや絶対に、冬矢にこれを知らせない。
つくづく、癖の強い妖怪に囲まれている弟が気の毒になる兄・秀明だった。

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