雪情
【近付く影ー2】


「そうだ刑事さんよ。
そんなことより
休むときくらい
手錠外してくれよ。

山登りの時も
両手が使えないのは
きつかったんだぜ?」




白井は
両手に掛かっている
手錠を挙げ、
ジャラジャラと音を
たてた。




「バカ言っちゃいかん。
そう簡単には手錠を
外せないよ」




「そのくらい
大目にみろよ」


と白井はボヤく。


続けて

「もしこの家が
雪男の隠れ家なら
どうするんだ?

自分の身は
自分で守りたいよ」




「また、その話かね。

心配しなくとも
ワシがお前の分まで
守ってやるさ」




「いくら
拳銃を持っていても
いきなり襲われたら
マズイだろ?

この家の
どこかに潜んでいるかも
しれないんだぜ?」




田崎は
周りを見渡しながら




「さっき二人で
家中調べただろう?

とても隠れる
ところなんてないね」




事実
一階はこの居間と
奥に台所と
階段しかない。




二階に至っては
廊下に並んで
空っぽの部屋が二つあり

小さい子供でさえ
隠れることが
できないのは
火を見るより明らかで
ある。




「窓から逃げて
外から様子見ている
かもしれないぜ?」




「窓は
どれも鍵がかかっていて
ほこりだらけ……

開けた形跡など
見当たらんがね」




白井は
残念そうな顔をした。




しかし、この男、
そうまでして
手錠を外したいのか?




先程の
雪男の話をした時とは
違い、
誰かが潜んでいるなんて
本気で思っている
顔ではない。




こいつは
本当か嘘か
すぐ顔に出やすい
タイプのようだ。




もしかして、
こんな山奥に
黙ってついて来たのも
手錠を外したいだけ
かもしれない。




あの吹雪の最中
逃げる隙は
いくらでもあったから、

やはり手錠を外すことを
目的としているようだ
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