繋がれたリビドー【BL】
幸福な王の気まぐれ
「ミギ様……なんと、お労しい姿に!」

少年の名はミギ。
かつての栄華を誇った没落貴族の子息で有り、菱の國の女王の寵愛を受けた少年愛の象徴だ。
彼は変声期と共に城を追われ、女王から離れ孤児に紛れ下人として生活をしていた。
女王の愛を一身に受けていたミギを知る者と再開し、ミギの変貌に驚愕した。


「此処は……」

言いかけたミギは見渡して理解した。
縞の國へ捕虜として送還されたのだった。
狭い牢に何百人も収容され、酸素は薄い。

手首には板が嵌め込まれて逃げられないようにしてある。
それが地獄の始まりだった。


食事のパンは毎朝一度きり、全員で分けると半分も残らない。
最初は分けていた。
次第に飢え、奪い合うことになる。


「ティラ、ティラ、跳ねる扉の外。ティラ、ティラ呼ぶよ樵さん。」

空腹を凌ぐためにミギは何度も童謡を呟くことにしていた。




ある日、争いで一人が怪我をした。
傷はとても美味しそうな色をしていて、ミギの頭には繰り返し童謡が流れ続けていた。

ティラ、とは古代の言葉で取るという意味で、何を取るかは不明だ。


一人、また一人、一日が過ぎると人が減ってゆく。

体はほぼ動かせず、眠って過ごす日々だった。
聴覚は麻痺し、指先の感覚も無い。



「やあ、残ったのか。」

はっきり、言葉が聞こえた。しかし、牢の解放された先は未知で、日の射さない牢の中で生活し、片目のミギにとっては殆ど姿を認識出来るものではなかった。



「お前……名前は?」


「ミギ……」


「……ビキか。」

菱の國の言語は微妙なニュアンスが聞き取りにくい。縞の人間にはミギはビキと聞こえるのだ。
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