ほたる火の消えかた
蛍、四つ
打ち負かした男が道場の床に倒れるのを見下ろして、七郎は鼻を鳴らした。

「相手にならん」

打ち据えられた額から血を流してうめく男に、冷たくそう吐き捨てる。


固唾を呑んで見守っていた周囲から、さざ波の如くヒソヒソと囁き交わす声が起こった。


「荒れておられるな、七郎様は」

「それはそうだろう。
狙っておられた『晴蔵』の名と道場主の座を兄君に奪われたばかりだからな」

「いくら七郎様も剣の腕が優れておるとは言え、まだ今年で十五。兄君より生まれてくるのが六年も遅くては敵うまいて」

囁く声に苦笑が混じる。

「そうでなくとも、兄君の『晴蔵』様は城下に並ぶ者もなき剣士。武者修行の旅から戻られて、なおいっそうたくましゅうなられた」

「七郎様が嫉妬されるのもわかるが……相手が悪い。あのような優秀な兄君を持ったが運の尽きというものじゃ」

「それにあの御気性ではの。兄君の存在がなくとも、お父上が道場をお任せになるとはとてもとても……」

「今も、町で肩がぶつかっただけの相手に因縁をつけ、道場にまで引き込んで滅多打ちとは──さすがは結城の鬼の子じゃ」


囁き合っていた結城道場の門弟たちは、「そこ!」という鋭い怒声と共に、木刀を向けられて身をすくめた。

「この俺に言いたいことがあるようだな」

切れ長の目で門弟たちを睨み据える七郎には、おおよそ十五の少年とは思えぬ──大人たちをも怯ませるほどの気迫が漲っていた。

その気迫の底の部分では、どうあがこうと思い通りにならない何かに対する
怒りとも憎悪ともつかぬ暗い感情が激しく燃えさかっている。

「相手になってやる。前に出ろ!」

「い、いえ……我々は別にそのような……」

色を失う門弟たちを眺めて、七郎はその美貌を残忍な笑みで彩った。

「あきれたな。子供相手に何を怯えている? 言い訳など聞く耳持たん!」

そう吐き捨てるなり、嫌がる門弟たちを無理矢理に道場の真ん中へと引きずり出し──


たちまち道場には、悲鳴とうめき声が満ちた。
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