苦くて甘い恋愛中毒


ビール片手に部屋で悶々としていると、本当に気分が滅入ってきた。

せっかくの週末なのに私はひとりで何をやってるんだろう。

アルコールのせいで赤くほてった顔に手あてる。
そこで初めて、自分の頬に一筋の液体(人はこれを涙と呼ぶらしい)が流れているのに気づく。

もう化粧は落とした後だったから、化粧崩れの心配はないけど、やっぱり、気分のいいものではない。


そういえば、私はいつから自分の涙を疎ましく思うようになったんだっけ?

昔から、涙を武器にするような女たちが大嫌いだったけれど。
(こういう女は大抵、尻も口も発砲スチロール並に軽い)


週末に、ひとりで缶ビールを飲みながら泣いているだなんて、完全にイタイ女決定だ。

今日はもう寝てしまおう。
起きていたってロクなことを考えない。


空き缶を片付けるのは明日にして、歯だけ磨いて、ベッドに潜り込む。
視界が一気に深い濃紺に染まり、ただでさえ憂鬱な気分がさらに落ちるのを肌で感じる。

「すっごい綺麗な色!」と飛びついて買ったベッドカバーだったのに、わずか三週間で嫌気がさすとは夢にも思わなかった。
しかもわりと高かったのに、今となってはあの時の自分が恨めしい。

とはいいつつ、缶ビール五本と積もり積もった疲労が手助けして、数分で深い眠りについた。



多分、すごく、疲れていた。
体も心も疲れ切り、紺のベッドに埋もれて、あの時のことを夢に見た。

辛くて苦しくて、後悔しかなくて、無意識に思い出すのを避けていたから。
ちゃんと向き合えって誰かが言っていたのかもしれない。


三年前の、あの夏。
きっと生涯忘れることのないあの夏。


私の現在(いま)が始まった……――あの、夏。



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