彼-id-SCOUP

 運動部や吹奏楽部の音を、どこか別世界からのもののように感じながら歩く。

 結局あの後、ホームルームになっても天音ちゃんは戻って来ず終い。

 もう。

 どこまで情報を集めにいったんだか。

「失礼します……」

 生徒会室に入るとそこには数人の先輩がいて、皆それぞれに書類に目を通したり楽しげに談笑をしていたり。

 なんだか邪魔をしちゃったかな、と思っていたらその中のひとりの先輩がわたしに気付き、

「テル~お客様~」

 奥に向かって声をかけてくれた。

(先輩、テルって呼ばれてるんだ……)

 秘密というほど大層なことじゃないけれど。

 でも、普段の先輩の一部分を知れてちょっぴり嬉しくなるわたし。

 っと、いけないいけない。

 思わず頬が緩んでしまいそうになって奥歯にキュッ、と力を入れる。

 そんなことをコッソリしていると、

「あぁいらっしゃい、琴引さん」

 相変わらずのやさしい微笑みを浮かべながら先輩が近くにやってきた。

「こ、こんにちは!!」

「はい、こんにちは」

 勢い込んでおじぎをするわたしに丁寧な動作で“礼”をする先輩。

 ひとつひとつの所作がこの人は本当に綺麗だ。

 もちろんそこに嫌味なんて微塵もないし。

 たった2年の違いなのに、こんなにも違うものなのかな。

 ファンタジー小説なら間違いなく“王族”役で登場するだろうな。

 あぁ、似合いすぎる……。

 って、再びいけないいけない。

 思わず颯爽とマントをひるがえす先輩の姿を頭に浮かべてしまった。

 天音ちゃんの妄想癖が移ったかな。

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