上司に恋しちゃいました
あやまちの一夜
「何やってんだよ」


突然差し出された傘。あたしだけに降っているような雨から守ってくれたのは、白馬の王子様ではなく、鬼の王子様だった。



この偶然が、良かったのか悪かったのか。


左手に光る指輪は、何も教えてくれない。


「課長……どうして……?」


「取引先の会社がこの近くなんだ。やっと今終わった所だ」


鬼の王子は濡れたあたしをハンカチで拭いてくれた。


犬や猫を拭くような、無造作な手付き。


眉やマスカラが落ちてしまうと思ったが、抵抗しなかった。


こんな乱暴な優しさでも、優しさと名のつくものに寄りかかりたかった。


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