私がヒールをぬいだ時
居場所のない所、ある所
私達は8時に店に着いた

『綺麗な店ですね…』


『友達と前に食べにきて気に入ったの』


お座敷の部屋に案内され、とりあえずビールを頼んだ


『コースはもう頼んでるから。お酒は梅酒が美味しかったわよ』


『じゃあ後から頼もうかな…とりあえず先生の作品、映画化に乾杯!』と中井君が言った


蒸し暑かったこんな日にスーツでやってきた二人には、最高のビールだったと思う


『とりあえず、来月の25日には東京入りしといてください』


『わかりました。なんか映画化もとんとん拍子だったわね』


『とにかく監督が気に入ってるんでね。いい映画に仕上がりますよ』


『アニメのほうは何が?』


『【私がヒールをぬいだ時】です。これは春からにだいたい決まりました。視聴率の高い深夜枠なんで期待できます。それにこの作品、ドラマ化も検討されてるんです』


『ドラマ化!』


『あくまでもアニメの評判しだいなんですけどね。僕としてはドラマ化はかなり期待できると思うんですよ』


と中井は鼻息を荒くして言った


【私がヒールをぬいだ時】…この作品は例の元カレとラッブラブの時に描いたものである


随所、随所に、バカップルぶりの台詞なんか盛り込まれていて恥ずかしい限りだ…


でも好きな作品の一つなんで嬉しかった


『今年はいろいろありましたけど、頑張った結果、ちゃんと出てるじゃないですか』と彼らは言った


『まあね…』胸中複雑である


『それより先生、竹内さんって彼氏いるんですか?』と梅川君が聞いてきた


『さあ…いないと思うけどな』


『梅川、かなりタイプらしいんですよ』


『そうなんです。ど真ん中ですね』


『彼女モテるからね…気をつけてね』と私は笑った


『毎月楽しみだなあ』


おいおい、山本さん、危ないよ
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