ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├飼犬の涙

 煌Side
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「桜……てめえ……」



――お願いよ、煌ッ!! 玲くんを助けてよッッッ!!!!



突如切れた芹霞の悲鳴。



俺は――

横から電話を切った桜を睥睨した。



桜は、携帯を持ったまま…

冷ややかな眼差しで俺を見ている。


全て飲み込みそうな、ブラックホールのような色を目に宿す、漆黒色の警護団長。



非情と名高い、『漆黒の鬼雷』。



「桜、早く芹霞に電話かけ直せッ!!」



俺は携帯というものの使い方を知らない。


使おうとすれば、火が出て暴発する。

ましてやこれは櫂の携帯だ。


電話をかけるのなら、桜の手を借りるしか術はねえ。



「早くッ!!」



「ねえ、煌……」



桜は、静かに口を開いた。

焦る俺とは…対照的に。



「私が切らずにいたら――

何て答えるつもりでしたの?」



冷静すぎるのが、不気味な程に。



「どんな状況であっても、例え玲様や芹霞さん達を見捨てても、今倒れられて眠られている櫂様と共に居ると…、

櫂様の護衛なのだから、それが正しい決断なのだと、そう…言い張るつもりでしたの…?」



――あたしを嫌いになったらなったでいいから。



「桜、お前と言い争ってる時間はねえんだ。


……いい。…直接行く。


俺が助けに行くッッ!!」



――あたしなんて放っておいていいから。



俺は言ってねえよ。



お前が嫌いなんて一言も言ってねえ。

お前を放っておくなんて言ってねえ。




絶対――


ありえねえ。



だから俺は――




「だったら……」



背後で桜の声がする。





「早く行けや、


――このボケッ!!!」





ドガッッ



背筋に、桜の蹴りを食らった。



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