ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
第4日~虚空に乱れる薔薇~

├王子様の苦渋

 櫂Side
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夢を見ていた。


幼い頃の俺と芹霞。



――芹霞ちゃあああん!!!



今でも変わらない、勝ち気な黒い瞳。

健康的な小麦色の肌にいつも傷を負い、肩で切り揃えた黒髪を風に靡かせ、爽やかな笑顔を見せるその姿。


――あたしの櫂に何をするッッ!!!


芹霞は、いつの時もどんなことからも俺を守り抜いた。


俺を傷つけるものは全力で攻撃し、

俺が大切にするものは全力で庇護した。


――あたしは櫂を守るから。

――あたしを信じていてね。


口先だけではなく、確かな行動で示した。


近所のガキ大将に虐められて泣く俺。

転んで血を見て泣く俺。

捜し物が見つからないと泣く俺。

風邪をひいて辛くて泣く俺。

哀しい物語に泣く俺。


芹霞が居ないと不安で泣き、

芹霞を見つけると感動で泣く俺。


とにかく"泣く"しか能がなかった俺に、芹霞は誰よりも早く駆けつけ、温かく抱きしめたんだ。


俺は決して1人ではないと、

俺が泣き止むまでずっと抱き留めてくれた。


俺にとって芹霞は、絶対的な存在で、決して裏切らない唯一無二の存在。



――あたしは櫂がだあい好き。



それは…これ以上ない程幸せな言葉だ。


最初は心がほんのり温かかった。


やがて温かさは、焦げ付くような熱さに変わり、その内痛みを伴う切なさに変わった。

そして切なさは…渇望に変わる。


俺が芹霞を想っているくらい、芹霞は俺を好きでいてくれているのだろうか。


俺が芹霞を必要だと思っているくらい、芹霞は俺を必要としてくれているだろうか。


俺から芹霞を取ったら何も残らない。


芹霞こそが俺の全てだと…

同じように、俺を思っていてくれているのだろうか。


俺と芹霞の感情は、寸分たりとも差違はないだろうか。


考え出したら不安が止まらない、"恋心"の芽生え。

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