ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├お姫様と金色

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桜ちゃんには――

悪いことをしたと思っている。


だけどそうでもしないと、いつも以上に警戒心を高めて警護している桜ちゃんの居る場所から、あたしは抜け出すことが出来なかったから。


皆が倒れている最中、放置して出て来るのは忍びなかったけれど、動けるのが桜ちゃん1人だけだというのが、逆にチャンスにもなった。



――日付が変わる時、お前を迎えに来る。



あたしは闇夜――

月光色に染まった金色の男、道化師と合流した。


男は…マンションしたの花壇の縁に、堂々と座っていたんだ。


闇夜にぼんやりと佇む金の影は、幻想的に思える程の儚さを見せていて…いつもの"ぎゃはぎゃは"の、特異な存在感は影を潜めていた。


それはまるで、様々な形を見せる月のようで。

限定的な"生"に揺れた、不確かなもののようで。


その曖昧さ故か――

凄く綺麗に思った。


思わず息を飲んで見つめるあたしに気づいた男は、ゆっくりと…金色の瞳を向けてくると、複雑そうに顔を歪めた。



吃驚しているような。

満足しているような。



――まさか本当に出てくるとは。



どんな条件であれ、玲くんと弥生を助けて、あたし達をきちんと生かせてくれたことは事実。


そっちが約束を守ってくれたのに、こっちが約束違えるなんて…そんなの女がすたる。


そう言うと、男はぎゃはぎゃは煩く笑った。



――紫堂の奴らがよく許したな。


そんなの許す筈ないだろうから、こっそり出てきたに決まってる。

あんたがもっと好感度高ければ、お土産くらいくれたでしょうに。

こんな極悪男が相手なんて、本当にあたしはついてない。


そう言うと、男はひいひいと身を捩じらせて笑った。

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