ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├飼い犬の焦り

 煌Side
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神崎家地下室、"鍛錬場"――。



「……!!?」


ぞわり、とした。

突如背筋に走った、得体の知らねえ悪寒。


これは此の場のひんやりとした冷たさのせいでも、目の前に居る緋狭姉が原因でもねえ。


虫の知らせ。

しかも…不吉な感じがする。



芹霞に…何かあったのか!!!?



「馬鹿犬、立ち上がるな」



緋狭姉が伏せていた目を薄くあけ、じろりと俺を一睨みするだけで…俺の動きは反射的に制される。


俺は渋々、また緋狭姉の前に座り込む。



「で、でもよ、なんか嫌な予感がするんだ」

「お前の予感はあてにならん」



芹霞とよく似た神秘的な目を向けられ、俺は思わずその目に魅入ってしまう。



「……盛るな、馬鹿犬」

「な!!?」



冗談じゃねえ。

誰が盛るかよ。



「私は、同じことを二度言うのは心底嫌いだ。それでも言わせたいのなら、お前も命の覚悟しておけ」


ぞくり。


先刻とは違う悪寒が背に走る。



――攫ったのが道化師なら、ひとまず妹は大丈夫だ。



「緋狭姉は心配にならねえのかよ!?」

「ならん」



一刀両断だ。



「だがよ、男と居るんだぜ?」



何かあったら堪らねえ。


櫂の心配性が移ってしまったのか。


よからぬ心配に、胃がきりきりしてくる。




それでも――


「私を信じよ」


鋭く見据えてくる眼差し。



「だがよー」



どうしても…すんなりとは受容出来ねえんだ。

不安ばかりが膨張しすぎて。
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