ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├お姫様の嘆き

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漆黒の…闇の中を、あたしは彷徨していた。


あたしを象る輪郭すら、無に還す…深い深い闇。


何も見えない。

何も聞こえない。



進んでいるのか、退いているのか。

本当に"あたし"は、存在しているのか。



何1つ、あたしには判らない。



全てが不明瞭で、不確かで。


冷たい闇に融合されていきそうで…

あたしという存在がなくなってしまいそうで…


怖くてたまらず、光ある出口を求めて、ひたすら流離(さすら)っていた。



その時、一筋の風を感じたように思う。



何処からか…

微かな声が漏れ聞こえた。



――早く……さいッ!!!



何を言ってるのか。



――…… に、助けを!!!


あたしには、よく聞こえない。



誰かが叫んでいるようだ。

必死に―――。



頬に何かか当たる。



これは――



――ああ、……のせいだ。



涙――?



――芹霞ちゃああん!



どうして、櫂が泣いているのだろう?


何処に櫂が居るのだろう?


あたし口から出るのは闇ばかりで、言葉にならず。


何も判らない。



ああ。

闇の色が変わる。



漆黒から――

鮮やかな真紅色へと。



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