ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├王子様の熟考

 櫂Side
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電話の呼び出し音。

低められた話し声。



俺の朦朧とした意識は…現実に還る。



酷く身体が重い。

まるで鉛のようだ。


頭がぼんやりとして、思考できない。



「………」



朝……か?



夢を見ていたのか…?


酷い…悪夢だった気がする。



ドンナアクム?




「……俺は…」




――桜、麻酔を持ってこいッッ!!!


――櫂、芹霞は煌に任せるんだッッ!!!




それは突然に起きた――



「!!!!」



記憶の蘇生(フラッショバック)。


まるで、閃光のように。



割れた窓。

ひび割れた壁。


そして――

赤く腫れた俺の拳。



胸には…薄れたはずの、鈍痛が骨まで響く。



俺はベッドから飛び起き、居間に向かう。


丁度、電話を終えた玲がこちらを向いた。



「おはよう」


にっこりと微笑んだんだ。


「芹霞は!!!? 

芹霞は戻って来てるのか!!?」


「大丈夫だ、煌が向かっているから」


「向かっているって…まだなのか!!!? 10時だぞ!!!?」


俺は柱時計を指をさして怒鳴った。


玲の…爽やかさが苛ついてくる。


どうしてこいつ、余裕なんだ?

どうして、いつも通りなんだ?


――ぎゃはははは。


あの男、芹霞を気に入ってるんだろ!?



もし芹霞が――。



芹霞が!!!!



「櫂、煌を信じられないのか?」



玲の声が低く鎮められた。


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