ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├飼い犬の威嚇

 煌Side
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御階堂充――。


酷く、蔑んだ目だ。


俺達を上から見下ろすその顔は、嫌悪感に歪んでいる。


元から蔑んで見る男だが、更に輪をかけているのは…嫌悪以上の激しい情が湧きあがっているからだろう。


嫉妬。



「逃げるどころか、いちゃついているとはな」


嫉妬の対象に俺が選ばれて、現実、"いちゃついて"いるのであれば、嬉しいけれど。


幼馴染みという関係に戻れたのは心底嬉しいが、それはそれで大変だ。


俺の理性との闘いを打ち破るかのように、煽るだけ煽って、自分はそれを何とも思っていない。


完全無意識。

天然女って怖え。


「いちゃ……ッて、どこをどう見たらそう見えるのよッ!? 違うでしょッ!!!」


俺の足の間を分け入るようにして、警戒心無くすっぽりと収まる芹霞。


香水女相手なら簡単に組み敷いていたものを、芹霞が相手だと思えば、厭に心臓がどくどくして喉が渇くだけで、何一つ動けねえ。


――ぎゅう、好きだよ?


やけに芹霞の白肌が眩しくて。

やけに芹霞が甘く匂って。

やけに芹霞の声に息苦しくなって。


直に感じる芹霞の熱さに、その肌の柔らかさに、くらくらくらくら目眩をおこし、俺だけの痕跡残して壊してしまいたい衝動が走った。


一気に限界ぎりぎり。


これ以上時間が経てば絶対理性が崩壊する気がして、必死に頭で緋狭姉思い浮かべて、鬩ぐ心抑えるのに精一杯で。


――どこをどう見たらそう見えるのよッ!?

 
そんな俺に、そこまで否定するか?


忍耐力ねえ俺が、必死に耐えているんだ。

少しは俺を気遣えよ。


ああ…。

櫂に同情していた自分が滑稽だ。

まさか、俺までそんな被害に遭うとは。


櫂…。

お前本当に辛かったな。


よく12年も、我慢してられてるよ。

やっぱりお前は凄え奴だ。

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